今や海外の主要映画祭の常連となってしまった、日本を代表する映画監督である是枝裕和監督の2015年の作品『海街diary』。
美しい湘南の海を背景に、腹違いの妹を家族として受け入れた三姉妹が、やがて四姉妹となっていく過程を、移り変わっていく日本の美しい季節とともに描いたこの人間ドラマ。
超がつくほどの豪華キャストを、脇役、端役として惜しげもなく使ったこのすごい映画を、レビューしていきたいと思います!
(ネタバレありのレビューです)
『海街diary』
2015年 日本映画 英題:Our Little Sister
上映時間 126分
監督 :是枝裕和
脚本 :是枝裕和
音楽 :菅野よう子
原作 :吉田秋生
目次
あらすじ
香田家の三姉妹の父が亡くなった。
15年前に家を出た三姉妹の父は生前は山形県に住んでいて、三姉妹は自分たちに腹違いの妹がいることを知る。
三姉妹の長女幸は、義理の家族と暮らさなければならなくなった不憫な異母妹すずを、鎌倉の自分たちの家に受け入れる決断をする。
登場人物
香田幸/綾瀬はるか
香田家の三姉妹の長女。
看護師で、妻子持ちの医者と不倫をしている。
三姉妹をまとめあげる厳しくもしっかりした性格の持ち主。
妹たちからは「シャチ姉」と呼ばれている。
香田佳乃/長澤まさみ
香田家の三姉妹の次女。
銀行窓口の受付担当。
長女の幸とは対照的に、自由奔放で天真爛漫な性格。
ダメ男に引っかかってばかりいる。
香田千佳/夏帆
香田家の三姉妹の三女。
スポーツ用品店の店員。
ぶつかり合いがちな2人の姉の間に入り仲を取り持つ、柔軟な、そして優柔不断な性格である。
浅野すず/広瀬すず
香田家の三姉妹の異母妹。
中学生。
山形県から神奈川県鎌倉市に移住してからはサッカーチームに所属している。
いわゆる「いい子」だが、お酒を飲んだとき悪態をつくことから、日頃からいろいろ我慢していることがわかる。
『海街diary』の舞台は?
映画『海街diary』の舞台となるのは神奈川県鎌倉市の海沿いの街。
いわゆる湘南エリアで、背景に海や江の島が何度も登場します。
感想
長澤まさみの足のアップから映画がスタート
映画開始早々、足のアップのシーン。
この世に映画は数あれど、人の足のアップから始まる映画はあまりないはず。
そこから長澤まさみ演じる佳乃と坂口健太郎演じる佳乃の恋人がベッドで寝ているシーンへ。
そして佳乃がアパートを出て、管弦楽の素敵な音楽が始まり、海をバックに「海街diary」のオープニングタイトル。
これから始まる素敵な物語を予感させる、とても印象的なオープニングです。
超!豪華キャスト
物語の中心となる香田家の三姉妹を演じるのは綾瀬はるか、長澤まさみ、夏帆。
三姉妹の異母妹に広瀬すず。
脇を固めるのは加瀬亮、坂口健太郎、鈴木亮平、リリーフランキー、堤真一、樹木希林、風吹ジュン、大竹しのぶなど。
もう日本の実力派俳優のオールスターではないかと思うほど、超がつく豪華キャストの映画ですね。
広瀬すずの天才ぶりが垣間見える序盤
葬儀時の死んだ顔から、鎌倉の三姉妹の家に引き取られたあとの活き活きとした顔への変化。
しかしまだおずおずと遠慮がちなところが残っているすず。
この後日本を代表する若手演技派女優として大活躍する広瀬すずの天才ぶりが垣間見える序盤です。
徐々に真の家族になっていく4人
三姉妹から四姉妹へ。
「さん」付けから「さん」なしへ。
敬語からタメ口へ。
最初は借りてきた猫のようだったすずが、徐々に三姉妹との関係を深め、真の家族となっていく様子が、本当に丁寧に描かれていきます。
とらえどころのない三女を見事に演じた演技派女優「夏帆」
演技派女優、夏帆。
彼女は色々な映画、ドラマで見てきましたが、本当に演技力のある女優さんですよね。
この映画『海街diary』でも、
しっかり者の長女、
奔放でだらしない次女、
という、キャラが立っているわかりやすい2人の姉と比較して、とらえどころのない難しい役の三女、香田千佳というキャラクターを見事に演じ切っています。
三女、千佳は、スポーツ用品店の店員として働き、趣味はヘラブナ釣りで、イケメンからはほど遠い、元登山家の個性的な店長と付き合っている、という設定。
ぶつかり合いがちな2人の姉の間に立ち、家族の緩衝材のような存在として生きてきたことを感じさせるこの難しい役。
是枝裕和監督も、この難しい役を演じられるのは夏帆しかいない!という渾身のキャスティングだったのではないでしょうか。
リアルかつ繊細な人間ドラマ
この映画『海街diary』がいわゆる普通のテレビドラマなどと決定的に違うところは、「物語を盛り上げる事件を起こそうとせず、現実にありそうな会話に終始している」点です。
その代表的な場面が中盤、大竹しのぶ演じる三姉妹の母佐々木都とすずが2人で会話するシーンで、都からするとすずは自分の亭主を奪っていった女の娘であるわけで、普通のテレビドラマ演出ならば嫌味の一つでも言って昼ドラ展開に持ち込みがちですが、この『海街diary』では都はすずを気づかうような発言に終始しています。
現実に気まずい関係の2人の初対面ではこういう会話になるはずで、安易にドラマを作るよりも、リアルさを重視した演出と言えると思います。
都がだらしない感じの性格であることから、三姉妹の次女佳乃の奔放さは母親ゆずりということであり、そうした親子の血のつながりを感じさせる設定や演出も見事です。
香田家伝統の「梅」というアイテムの使い方も見事
香田家の家の庭には梅の木があり、その木から採れる梅の実で、香田家は三姉妹の祖母の時代から梅酒を作り続けてきました。
この映画はその梅の木を中心に動いていると言っても過言ではなく、すずが初めて酔っぱらって悪態をつくのもその梅酒。
他にも四姉妹が梅の実を収穫するシーンや、長女幸が相性の悪い実母都とお墓参りに行き、別れ際に香田家伝統の梅酒を渡す素敵なシーンでも、それは登場します。
「梅」というアイテムで、直接は描かれない香田家の歴史を表現する、素晴らしい演出です。
日本の美しい季節が描かれた映画でもある
桜、梅の収穫、梅雨、紫陽花、夏の花火大会、四姉妹での花火、そしてセミの鳴き声など、季節が移り変わっていくごとに、すずが本当に家族になっていき、三姉妹が四姉妹になっていく。
特別な大事件など何も起きないが、四姉妹とともに移り変わっていく季節を本当に美しく描いた映画です。
作品の背後に常に流れ続けている父の存在
この映画の主役である四姉妹の父は、家族の口で語られるだけで、回想シーンですら登場することはありません。
しかし作品のオープニングからエンディングまで、まるで四姉妹を見守っているかのように、作品の背後に父の存在は流れ続けています。
四姉妹が真の家族となっていく中で、常に父の存在を感じさせる演出が、見事だと言えると思います。
まとめ:家族の歴史と絆を描いた美しい人間ドラマ
父の死をきっかけに、三姉妹が四姉妹になり、そして異母妹のすずがやがて本当の家族になっていく過程を、日本の季節の移り変わりとともに描いた美しい人間ドラマ、それがこの『海街diary』という映画でした。
この映画を観終わったとき、私の中に残ったのは、安っぽいお涙頂戴映画では決して得ることのできない、心がほんのり温かくなるような、静かな感動でした。
心温まる映画が観たいと思っているそこのあなたには、絶対におすすめしたい、最高の人間ドラマです!
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