ベトナム帰還兵の孤独と狂気をあまりにもリアルに描き、公開から50年近く立った今でも語り継がれる傑作中の傑作「タクシードライバー」。
何度も観ているのに、何度もまた観たくなる。
それは、私の中にもあなたの中にも主人公トラヴィスがいるからかもしれない・・・。
(ネタバレありのレビューです)
1976年 アメリカ映画 原題:Taxi Driver
上映時間 114分
推奨年齢 16歳以上
監督 :マーティン・スコセッシ
脚本 :ポール・シュレイダー
音楽 :バーナード・ハーマン
(キャスト)
ベッツィー :シビル・シェパード
アイリス :ジョディ・フォスター
スポーツ :ハーヴェイ・カイテル
目次
あらすじ
ニューヨークに住む不眠症に悩むベトナム帰還兵のトラヴィスは、小さなタクシー会社に採用され、夜勤のタクシー運転手を始める。
彼はタクシードライバーをやりながら毎日のように見る、麻薬と性欲に溺れる盛り場の退廃ぶりに嫌悪感を募らせていた。
そんな中で一目ぼれした女性に振られたことをきっかけに、彼の歪んだ、自分本位な正義感が暴走を始める。
カンヌ映画祭パルム・ドール受賞作品
この作品は第29回カンヌ国際映画祭の最高賞である、パルム・ドールを受賞しています。
第49回アカデミー賞の作品賞にはノミネートはしましたが、受賞することはできませんでした(受賞したのは「ロッキー」)。
ロバート・デ・ニーロの役作り
徹底した役作りをすることで知られる演技派俳優ロバート・デ・ニーロは、本作では数週間実際にタクシー運転手として働き、役作りをしました。
感想
避けて通れないベトナム帰還兵問題
主人公トラヴィスはベトナム戦争の帰還兵で、しかも優秀な人間しか入れないと言われている海兵隊に所属していました(これはトラヴィスのはったりという説もあります)。
国のために命をかけて異国で何年も戦ってきたというのに、母国に帰ってみると英雄どころか邪魔者扱いで、学もないので26歳の若さでタクシードライバーのような底辺職という選択肢しかない。
そのやりきれなさが、彼を次第に狂気へと駆り立てていきます。
サックスの音色がこの作品の完成度を更に高める
この作品の音楽を担当したのは、ヒッチコック作品などを多く手掛けたバーナード・ハーマン。
あの有名な「サイコ」のテーマ曲も彼の作品です。
この「タクシードライバー」の音楽は全編通してスローなジャズテイスト。
全編通して流れるサックスのソロが、トラヴィスの孤独感をうまく表現しています。
選挙事務所にずかずかと入り込んで女性を口説くトラヴィス
トラヴィスはタクシーを流しているときに見つけ、一目ぼれした、次期大統領候補のパランタインの選挙事務所で働いているベッツィーの事務所にずかずかと乗り込んで、堂々とベッツィーを口説き始めます。
この行動から、トラヴィスという男は、友達がおらずコミュ障気味ではあるものの、自信と行動力に関しては抜群のものを持っていると推察できます。
せっかく誘い出した女を、なぜかポルノ映画館へ
これはかなり有名なシーンですが、せっかく口説き落としてデートをする関係まで持って行った女性ベッツィーを、トラヴィスはなんと自分がいつも一人で通っているポルノ映画館に連れ込みます。
男女が裸でもつれあう、気持ち悪い映像を見せられて、呆れて映画館を出るベッツィー。
これでベッツィーはトラヴィスを見限り、二度とトラヴィスと会おうとはしなくなります。
当然の反応ですが、トラヴィスがなぜこんな愚かなことをしてしまったかと言えば、本来恋愛を経験すべき年齢をトラヴィスは戦場で過ごしていたために、女性の扱い方がまったくわからなかったから、ということが読み取れます。
自信と行動力はあるので女性を誘い出すまではいけますが、そこから先が続かない。
これも戦争の代償なのかもしれません。
そもそもなぜベッツィーはトラヴィスの誘いに応じたのか
明らかに学がある上流階級出身であろうベッツィーは、そもそもなぜ典型的なブルーカラー労働者である、学のないタクシードライバーのトラヴィスの誘いに応じたのか。
これはただの推測ですが、私は「好奇心」によるものだと思います。
ベッツィーは自分の働いている選挙事務所にいるような、学はあるが口先だけの男たちに退屈さを感じていた。
そんな中で事務所にずかずかと乗り込んできて、堂々と自分を口説き始めたトラヴィスに、ベッツィーは自分の周りの男にない、オスとしての強さを感じ、それに興味をそそられたのではないでしょうか。
スコセッシ監督が俳優として出演
マーティン・スコセッシ監督が、妻を黒人に寝取られて、妻を撃ち殺そうと目論んでいるイカれた男を熱演。
本来ヤバい奴であるはずのトラヴィスのほうが、「こいつはヤバい奴だ」と言わんばかりに緊張して警戒しているのが印象的なシーンです。
社会的地位を高め始めた黒人への怒りの感情
主人公トラヴィスの個人的感情のみならず、この映画全体に社会的地位を高め始めた黒人への怒りの感情を感じることができます。
トラヴィスの黒人たちに向ける攻撃的な眼差し、トラヴィスが撃ち殺す強盗も黒人、そしてその強盗に対する白人店主の追撃、そしてスコセッシ監督が自ら演じた妻に不倫されたイカれた乗客の間男も黒人。
この映画の特に前半は、映画全体に社会的地位を高め始めた黒人への怒りと憤りの空気が漂っている気がします。
"You talkin' to me?"
世界中で真似されたであろう、この名セリフ。
デニーロのちょっとイキってる感じの顔がいい感じです。
男性なら誰しも、若いころにこうして鏡の前でイキったポーズをとったりしたことがあるはず。
このセリフ、デニーロのアドリブだったそうですね。
アドリブで映画史に残る名セリフを生み出してしまうとは、さすが名優ロバート・デ・ニーロであります。
売春をする少女を救おうとするトラヴィス
ベッツィーに振られてからのトラヴィスは、2つの目標に向けて行動し始めます。
1つはパランタイン次期大統領候補の暗殺。
もう1つは売春をさせられている12歳半の少女アイリスの救出です。
このことからわかることは、トラヴィスは自分の信念の範囲においての社会正義のために戦おうとしている、ということで、彼は決してただの狂人ではない、ということです。
トラヴィスは他の大人たちのように、まだ幼い少女のアイリスに対し自分の欲望を満たそうとはせず、紳士的とも言っていい態度で接します。
しかし態度は紳士的ですが、その発言は「社会の汚物は洗い流さなければならない」などと、やはり独善的です。
少女アイリスを演じたジョディ・フォスター
「タクシードライバー」という作品を語る上で、避けて通れないのが、12歳半の若さで売春をして生計を立てている少女アイリスを演じたジョディ・フォスター。
当時13歳。
アイリスがトラヴィスとカフェで朝食を食べるシーンを見てもわかるように、そのコケティッシュな魅力は当時からすでにあり、そしてクライマックスシーンでの殺戮を目の当たりにした少女の恐怖を演じる演技力も、当時から抜群のものを持っていたことがわかります。
次期大統領候補暗殺失敗後、唐突な虐殺へ
モヒカン頭にグラサン、という「私は不審者です」と宣伝しているかのような風体で大統領候補の暗殺に臨むトラヴィス。
このモヒカン頭は、「ベトナム戦争で特殊任務に赴く兵士はモヒカン頭にした」という話を監督が聞き、採用したとのことですが、どこからどう見ても怪しい奴です。
案の定暗殺を実行に移そうとしたところでSPに見つかり、暗殺は失敗に終わってしまいます。
失敗後唐突な方向転換、トラヴィスの思考は
トラヴィスが大統領候補の暗殺失敗から、彼がスポーツを突然拳銃で撃つまでがあまりに唐突で、ここで「えっ?」となってしまう視聴者もいると思いますが、ここではトラヴィスのこのような思考が推察されます。
- トラヴィスは死ぬ覚悟で大統領候補暗殺へ向かった
- 暗殺が未遂に終わり、死ねなかった
- 死ぬつもりで暗殺へ向かったので、もう日常生活には戻れない
- 死に場所を求めて、その日のうちにもう一つの目標であるアイリス救出へ向かう
アイリス救出のために3人を虐殺したあと、トラヴィスが拳銃自殺を図っていることから、トラヴィスが死に場所を求めてアイリス救出へ向かったことがわかります。
あまりにリアルなバイオレンスシーン
この「タクシードライバー」という映画、クライマックスのアイリス救出シーンに至るまではそこまで強烈な暴力シーンはありませんが、クライマックスで突如血みどろのバイオレンスシーンが展開されます。
しっかりと各武器の威力差を考慮した描写。
口径の小さい銃で撃たれたスポーツは即死せず、44マグナムで手を打たれた男は手ごと吹っ飛ばされます。
撃たれても死なず、「殺してやる!殺してやる!」とすがりついてくる男の描写もかなりリアルです。
人が撃たれても流血もせず、きれいに即死する過去の西部劇映画をあざ笑うかのような、リアルな殺戮シーンです。
想定外の英雄になってしまったトラヴィス
「ギャングから家出少女を命がけで救ったタクシー運転手」として、新聞に載るほどのヒーローになってしまったトラヴィス。
その後は変わらず同じ会社でタクシードライバーをやっています。
一時的に英雄扱いされたとしても、彼の生活も、世の中も、低収入の仕事も、何も変わっていません。
かつての想い人、ベッツィーと話す彼の姿に未練は感じられません。
そして彼のタクシーのバックミラーには、何も変わらぬ、荒んだニューヨークの街並みが映し出されていきます。
まとめ
さて、伝説の映画「タクシードライバー」の感想、レビュー、いかがでしたでしょうか。
この映画が後世に与えた影響は大きく、2019年のヒット作『ジョーカー』もこの作品の影響を強く受けている、と言われています。
主演のロバート・デ・ニーロの演技力、監督のマーティン・スコセッシの演出、カメラワーク、そしてバーナード・ハーマンの音楽。
この超一流の3つの要素が組み合わさった、まさに傑作中の傑作映画。
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