この記事は私が宮崎駿監督作品であり、久しぶりのスタジオジブリ制作作品である『君たちはどう生きるか』を2023年7月に映画館で観たときの感想です。
宮崎駿監督作品は私にとっては特別なものなので、いつもと違う文体で書いたものを、そのまま載せたいと思います。
私は観た。
おそらく宮崎駿最後の長編作品になるであろうこの映画を、この作品を。
私は25年ほど前、大きな(大きすぎる)期待を胸に『もののけ姫』を観るために映画館へ向かった日のことを思い出していた。
ラピュタやナウシカのような大冒険活劇を期待していた私は、映画が終わった後、そのあまりのつまらなさに打ちひしがれ、しばらく席を立つことができなかった。
それから25年の月日がたった今回はどうか。
社会人になり、結婚もしたが、私自身は若いころと比べて少し体力がなくなったくらいで、本質は何も変わっていないと思う。
『もののけ姫』のときのような期待はしてなかった。
もう宮崎駿も82歳だ。ナウシカやラピュタはもちろん、もののけ姫だって作れないことはわかっている。
おそらく『千と千尋の神隠し』の劣化版のようなよくわからない作品になるだろうな、と思いながら上映を待っていた。
少しだけネタバレを見ていたので、日本の戦時中のシーンから始まることはわかっていた。
最初のシーンから素晴らしさがすぐにわかった。
宮崎駿は82歳になっても演出力に関してはまったく衰えていない。
人がただ走る、階段を駆け上がる、それだけの描写でも、他のアニメ作家とは全くちがうものを見せてくれる。
結局誰も宮崎駿の天才的描写力を継承することはできなかった。
主人公の母親が亡くなり、その妹の夏子が紹介されるシーン。
彼女が乗り物から降りるときの表現、カバンの重さの表現、その全てにこだわりを感じる。
このあたりから気づいていた。
82歳の老人になっても、宮崎駿の描く少年の姿は変わらないということに。
背筋を伸ばし、目を見開き、強い意志を持ってまっすぐに前を向く少年。
そういう少年を、宮崎駿は描き続けてきた。
三つ子の魂百までと言うが、その言葉を体現してくれて、そのことに私は深く感動した。
ところで私は宮崎駿が監督した映画作品はほとんど視ているが、『崖の上のポニョ』と『風立ちぬ』の2作品は観ていない。
私にとっての宮崎駿作品とはカリオストロ、ナウシカ、ラピュタであり、劣化した宮崎駿作品は視たくなかったのかもしれない。
アオサギをきっかけにして、主人公が少しずつ戦時中の日本からファンタジーの世界へいざなわれていく。
この導入も良かった。
ネタバレを見ていたのでファンタジーの世界に行くことはわかっていたが、全くネタバレなしで視たら「ファンタジーの世界に行くのかな?行かないのかな?」と思いながら観ることができたので、ネタバレなしで視たほうが楽しめたかな?とは思う。
「白雪姫と7人の小人」ならぬ7人のおばあちゃんの登場は良かった。
表情豊かなおばあちゃんたちで、少し紅の豚を思い出した。
久石譲の音楽には期待していたのだが、予想以上に控えめだった。
このアート風のわかりにくい作風に合わせ、あえてキャッチーなメロディは控え、作品を引きたたせる音楽に徹しているように感じられた。
俳優(声優)に関しては、主人公の父役のキムタクはすぐわかり、ヒミ役のあいみょんもわかった。
どの俳優の演技もよく、ハウルの若いころのソフィーのようなおかしな配役はなかった。
強いてあげればあいみょんの演技は上手いとは言えなかったが、あいみょんの声そのものにそれを補って余りある魅力があることがわかった。
主人公が異世界に行ってからは評判通りストーリーはないと言っていいくらいわけがわからなかったが、演出に関しては変わらず良い。
異世界に行ってからは千と千尋と漫画版ナウシカの要素を強く感じた。
漫画版ナウシカは宮崎駿が大衆受けを一切考えず、自分が描きたいように作った作品で、それを考えるとこの『君たちはどう生きるか』に最も近い作品かもしれない。
あれだけ大ヒットした『千と千尋の神隠し』も、考えてみればストーリー的にはかなりわけのわからない作品だ。
それでも間違いなく楽しいのは、宮崎駿の圧倒的演出力とクライマックスの(とってつけたような)感動シーンによるものだと思う。
今作は「千と千尋からわかりやすくキャッチーな部分を極限まではぶいた作品」というのが私の評価だ。
私は平日の17時40分からの回で観たが、客入りは3分の1程度で、ファミリー層は皆無だった。
それが正解だ。
今作は完全に大人向けの作風で、子供が観て楽しめるものではない。
さて、82歳になった天才宮崎駿だが、いまだに彼の後継者は現れていない。
年齢から考えて、彼はもうこの規模の長編映画を作ることはできないだろう。
しかしこの『君たちはどう生きるか』を見てわかる通り、彼の演出力はまったく衰えていない。
長編は無理でも、『On Your Mark』のような短編なら可能だと思われるので、もう少し彼の作品の続きを視たいと思うのである。
フィルムコミック
ジ・アート・オブ 君たちはどう生きるか
元ネタの小説版
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